まずは…動画をどうぞ
タイトルが赤裸々すぎてアレですが、出音には個性ありますし、操作感も近年で最も感触が良いシンセです。
具体的に言うと・・・、色々あるのですが、最も感動したのはパラメータ変化。特にカットオフやエンベロープを可変する際のカーブの絶妙さ。リニアではないんです!
仮に0度~100度までノブが回るとすると、50度の角度時の変化は50%では無く10%ということです。そう、フィルターアタックだったら立ち上がりの早い範囲内を細かく調整できる!スイートスポットを突くのがやり易いのです。現代のアナログだとリニア変化がほとんどですので、フラストレーションがたまっていた方には朗報かと。
ユーザーインターフェイスも近年稀に見る秀逸さです。
基本は全て表に出ているツマミ、ボタンで操作できるのですが、より深いエディットをしたい場合は各セクション右上にある三角ボタンを押すことで、まるでページをめくったように詳細パラメーターがディスプレイに表示されます。表層の基本UIと一枚下の詳細UIという感じですね。とにかく分かりやすい。この規模の機能ですがマニュアルを見なくても分かるレベルです。
「無限のプリセットが可能」は伊達では無く、8GBのフラッシュメモリを搭載しているため、大量に音色をストックすることが出来ます。
店頭展示機にて、取り急ぎ搭載プリセットで音質・音色の傾向・特徴を知りたいという方は、【1】中央ディスプレイ下の「HOME」ボタンを押し、音色一覧ブラウズ画面へ推移し、【2】真ん中の大きなダイアルを回して選択、【3】そのダイアルを押し込むことで選択プリセットがアクティブになります。
Prophet5っぽく右下に並んだボタンはお気に入りプリセットを登録するボタンですので、これでは全てのプリセットをブラウズする事は出来ません。
また、Moog OneはWaldorf The WAVEやQなどのデザインで有名なAxel Hartmann氏の手によりmemorymoogデザインを踏襲したようなルックスをしていますが、memorymoogの代替えにはなりませんでした。
※写真はAxel Hartmann氏による試作デザインのレンダリング
出典:https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2189897717711361&set=a.438502296184254&type=3
海外ではMoog Oneリーク後に数台のmemorymoogがeBayへ放出されたこともありましたが、手放すのはオススメ出来ません。音色は置いておいて、音質は別物といって良いと思います。3340VCOチップの方が鼓膜へのアタック力は強い、そう感じました。
さて、時間をすこし戻して、お話しして行きましょう。
待望のMOOG製アナログポリシンセ/発売までの足跡
熱狂的なシンセギーグやMOOG信者達から渇望されていた「MOOGのアナログポリシンセ」。噂の始まりはDSIとmoogが会合を持ったという情報のあった2015年頃からでしょうか。
海外フォーラムではProphet6同様DIMM形式のボイスカード設計では無いかなど、憶測を楽しんでいた訳ですが、ついにその時は来ました。
記憶に新しい2018年6月26日、gearslutzのフォーラムにcloudswimmer氏によりリーク情報が投稿されたのです。
(一部内容をコピペ)
Originally Posted by cloudswimmer
Ok this is copied directly from my personal email from my rep who is a senior rep, and personal friend of mine:
Oh, it’s cooler than that! So glad I can actually spill some details for you now.
It’s polyphonic, and comes in 8- and 16-voice versions. (Moog has not only set us up as the earliest dealer with stock (around mid-August), but we’ll have an exclusive until they launch with other retailers in September. And they’ve also promised us a number of low-serial-number units (2-10) on each unit, though this does run an extra $500 (and also gets you a letter from Mike Adams, and a signed photo by the techs who built it). Sounds incredible, and check this out!
(以下はスペックが書かれていました)
リーク当初は発音数8又は16に対して割り切れない「3マルチティンバー」というスペックなどに対しフェイクではないか、といった指摘・議論があったものの、FaceBook上に2018年7月12日に作成されたMoogOneグループではリークを裏付けるような情報が散発的に投稿されるようになりました。
そんな海外フォーラムにポツポツ出てた噂、今見返すとほぼ事実だったんですね。
Msoundonsound.comの情報に肉付けする形でまとめてみました。
◆2013年7月 30年ぶりにポリシンセを作ることが決定される
◆2015年秋 ハードウェア開発開始
◆2016年初頭、最初のPCB基板完成
◆2017年5月 Moogfestでプロトタイプが関係者へ公開
◆2017年8月 「MOOG ONE」を商標登録
コードネーム”LAS” (Long Awaited Synthesizer)からMoog Oneへ
◆2018年6月 製品名称とスペック、販売価格がリーク
◆2018年10月29日 SweetWater先行発売・発送開始 (当初10/24予定から変更)
https://www.soundonsound.com/news/birth-moog-one
PCB基板リーク当時の写真
https://www.reddit.com/r/synthesizers/comments/8ui22y/first_images_of_the_moog_one_pcb/
商標登録の内容
Moog One アナログポリフォニック・シンセサイザーの件、少なくと新シンセが出るという事については角度の高い情報かもしれません。
Moog Music, Incは既に「MOOG ONE」を商標登録していました。https://t.co/rjEVMgQiTR pic.twitter.com/2aybEmzoNc— いーえるP@TinySymphony(最近VTuber) (@ELPTinySymphony) June 27, 2018
ちなみに初回生産150台はSweetWaterからの独占販売となり、さらにシリアルNo.20番までのMoog Oneをプレミアム版として、2018年夏に行われた招待制内覧会にて注文を受け付けたそうです。このプレミアムな低シリアルMoog Oneオーナーには12月頭頃に「社長直筆お礼状」、「シリアルが縫込まれたダストカバー」、「バックパネルデカール」の3点が送られました。
この低シリアルという物ですが、海外では一部の方々にとって「お宝」とされるそうで。何ででしょうね?
バックパネルデカール
余談ですが、こと復活後のMoog社で思い起こされるのは…、シリアル後半にトラブルが多発、搭載Tiチップに起因するリコールにまでなったminimoog Voyagerの悪夢。
うちにあるMoog製品を見るに、個人的には製品シリアルが若い方が丁寧にビルドされているようには感じていました。
またそれとは逆に、シリアル前半で問題の出たSub37。これはフィルターカットオフをグリグリすると軸が折れてしまうという設計不備でした。
話をMoog Oneに戻しましょう。
初回出荷後gearslutzのMoog Oneフォーラムは荒れに荒れた
これを書いている時点(2018年12月18日)では11月15日にリリースされたFirmware 1.0.2が最新です。発売後17日間でFirmware 1.0.0~1.0.1~1.0.2へと至ったのですが、これには複雑な事情が見え隠れしています。
一言で言うと「Moog Oneは未完成だった」という言葉につきると思います。
後述していく様々な問題を報告するオーナー達だけでなく、値段設定や不具合報告を受けてMOOGに失望したのかトロールも複数発生。gearslutzフォーラムはモーグトロール VS 一般ユーザーと行っても良いような状態になってしまいました。 なんだかちょっと楽しい!
「この価格帯なのに購入者をテスター扱いするのか」といった声が上がったり、逆に「ボーイングやテスラもそうだが、高額・高機能製品は未完成出荷が多いもんだ」等々、今も尚荒れ続けています。
そんな荒れたフォーラムですが、まず最初にオーナーから上がった悲鳴、それは内蔵冷却ファンの騒音でした。
Moog Oneが内蔵する冷却ファン
起動直後は7つ(!)の40mm冷却ファンが全力運転し、起動完了となると内部温度に応じて回転数がコントロールされる仕組みです。このファンは主にボイスカードの冷却に使われており、Firmware 1.0.0~1.0.1では過剰な回転速度、温度上昇に対して過敏すぎる設定だったようです。
Moog One 16ボイス版の中身を底面側から見てみましょう。
(MOOG社公式Youtubeの工房生中継よりキャプチャ)
鍵盤の付け根部分に40mmファンが装着されているのが分かります。スペースもギリギリなので大きい整音ファンに換装する事は残念ながら不可能でしょう。
中央のブロックを挟み、左右に巨大なボイスカードが4枚づつ多層化搭載されています。コネクタの位置都合で、左右の配置は表裏が逆になっているのが確認出来ますね。
この巨大なボイスカード、memorymoogやOberheim OB-Mxより大きいような。こりゃ熱もノイズも対策が大変そうですね。
ボイスカード1枚当たり2ボイスを発音する仕様ですので、16ボイス版は4枚+4枚構成。8ボイス版は2枚+2枚の構成になっています。
下記は8ボイス版の中身。
予算足らなすぎてウチの子は8ボイス版なのですが、8ボイス版の方はエアフローが良さそうで、炎天下のステージなどでは熱による暴走、コンデンサー劣化に強いのかもと。知らんけど。(適当)
冷却ファンの騒音はFirmware 1.0.2で改善
Firmware 1.0.1までは冬の和室でもKORG KRONOS2の5倍~10倍程度の騒音という印象でした。
後のFirmware 1.0.2で起動後のファン回転は大幅に抑制され、停止状態となっているのかほぼ無音に。KRONOSより静かという状態です。
しかし起動時の全力運転は当然変わりませんので、初めて起動する場合は驚かれることでしょう。参考までに動画を撮ってみました。
Moog One起動時のファン騒音
電源投入直後は小型ドローン並みの騒音。13秒後ファンコントロールが動き出すとほぼ無音になります。起動時間は50秒でした。(Firmware 1.0.2)
高いノイズフロア
ファン騒音の次に大きな話題となったのはノイズフロアでした。
無音時に「スー」というノイズ、ホワイトノイズのような音が出続ける状態ですね。
Firmware 1.0.2である程度改善はしましたが、依然所有するシンセではブッチギリでトップのノイズフロアの高さを誇っています。Volca Keysよりも圧倒的にノイズレベルが高いと言ったら伝わりますでしょうか。
しかし、それを踏まえて下記動画を聴いてみて下さい。ほとんど気にならないハズです。
弾いてみるとノイズフロアはほとんど気になりません。
というのもメインボリューム7割程度で他シンセのMAXに近い音量となるため、ボリューム半分以下だとノイズは目立たず、半分以上に上げることでノイズレベルが目立つ大きさになるということなのです。
ただ、音色プログラムによっては内部パラメーター的にゲインが低い音色というのも当然あります。各VCOボリュームやVCAでゲインアップしても足らない場合、メインボリュームを上げざるを得ない。するとノイズが目立つという状態になってしまいます。
ポリでなくモノのプログラムも同じくボリュームを上げざるを得ない状況があり、同じくノイズが大きくなってしまう事があります。
ノイズがマスターボリュームに対してどう増加するか聴いてみましょう。
ノイズを聴いてみる
常時鳴っているノイズに加え、打鍵時、発音中のサウンドに乗るノイズもモニタリング可能な音量となります。各VCOをオフにした状態で打鍵することで、ゲートが開放されノイズが漏れ聴こえるのが分かると思います。
既知の問題と未実装機能
以下は2018年11月15日にリリースされたFirmware 1.0.2時点での情報です。
【未実装機能】
◆WindowsシステムでUSB MIDIが動作しない。
◆MIDI CCの受信は一部のみで、ほとんどは受信出来ない。(完全なMIDIを実装予定)
◆外部MIDIクロックに同期不能。(近日対応予定)
※マニュアルより抜粋
MIDIとCVの実装は今後数週間にわたって大幅に拡張されます。
新機能を積極的に開発中であり、すぐに準備が整います。 これらには、アナログクロック入力と出力、CVピッチ/ゲート機能、MIDIクロック出力、および完全なMIDI CCとNRPNの入出力を含みます。
【既知の問題】
◆依然として高いノイズフロア。
◆シーケンサーのタイに不具合。
◆エンベロープレベルのベロシティモジュレーションが正しくスケーリングされない。
◆Panel Focusを使用して複数のシンセが選択されている場合、ソフトノブは選択したすべてのシンセのパラメーター値を編集出来ない。
◆システムで最初に日付/時刻を設定するときにハングする可能性がある。
◆未使用のハードウェア・ボイスはメイン・ミックスでミュートされない(ノイズフロアに影響する可能性がある)。
などなど、この他にもフォーラムにはバグ報告が寄せられています。
未実装はあれど超弩級アナログポリシンセであるのは事実
未実装は時間が解決するのを待てばよいですし、ノイブフロアについてはファーム1.0.2での改善を見るに、更なる改善にも期待が持てるかもしれません。
Linuxによる高度なシステム、制御のお陰でアナログ回路にも関わらず、信号経路の修正が可能というのは凄いですね。Elektron Analog Four、Analog Rytm同様に近代的な回路設計のようです。
この高度なシステムの恩恵で、同時発音数を3つのマルチティンバーへダイナミックにアサイン、鍵盤ガンガン叩いても発音数優先ティンバーへ割り当ててくれる等、アナログシンセとは思えない柔軟性が素晴らしいです。(エンベロープやLFOはデジタルなようですけども)
もちろんティンバーごとに発音数を設定することも出来ます。
今後の進化に期待しています。
参考URL
Moog One Facebook group
https://www.facebook.com/groups/1799075810168222/
Moog One Owners Group (M.O.O.G.)
https://www.facebook.com/groups/2345479155671056/
こちらのグループはSweetWater所属でMOOG ONEのマニュアル執筆者でもあるDaniel Fisherさんによる招待・承認で入れるFacebookグループです。日本のオーナーさんいたら是非。
今の所日本人私しかいないんですが・・・
おまけ
可愛いMoog One USBメモリが付属していました。
何故かビニールに入った一つと、箱の隅に挟まるようにもう一つ、計二つ入ってました。謎い。
有難く一つはMoog Oneに刺しっぱなしに、もう一つはWavseのドングルとして利用させて頂いてます。
更に鉛筆とノート。
製本マニュアルが間に合わなかった代わりでしょうかね。